コラム「耳を傾ける」シリーズ
第1回 “話す”ということ——自分を見つけるための小さな扉
「話しても、どうせわかってもらえない」
「何から話していいかも分からない」
「もう大人なんだから、自分のことくらい、自分でなんとかしなきゃ」
そんな思いを胸に、長いあいだ言葉を飲み込んできた人は少なくありません。
年代を問わず、家庭や仕事、地域のなかで“誰かのため”に生きている時間が多くなります。
自分の気持ちや本音を後回しにすることが、いつの間にか“当たり前”になってしまっている――そんな方に私はよく出会います。
でも、心の中に湧いてきた気持ちは、たとえどんなに小さくても、本当はちゃんと“感じたこと”です。
うまく言葉にできなくても、その存在は確かにあなたの一部であり、無視し続けると、やがて心や体の不調として表れてしまうこともあるのです。
話すことで、気づくことがある
カウンセリングの場で私が大切にしているのは、「どう話すか」よりも、「何が話されようとしているか」に耳を傾けることです。
たとえば、沈黙が続いたあとにポツリとこぼれる一言。そこには、その人の長い時間の重みが込められていることがあります。
「なんだかうまく言えないけど……」と前置きしながら話し始めたその内容が、その人の深い願いや悲しみを表していた、ということも珍しくありません。
“話す”という行為は、ただ情報を伝えるための手段ではありません。
むしろ、「自分でもまだはっきりしていない思い」に触れるための行為でもあります。
言葉にしてみることで、初めて「ああ、私ってこんなふうに感じていたんだ」と、自分の気持ちに気づくことがあるのです。
https://note.com/kana872/n/na5336bb5dff0
上手に話さなくていい、正解は必要ない
カウンセリングでは、うまく話す必要はありません。
正しい順番も、結論もいりません。
途中で話が飛んでも、泣いてしまっても、黙ってしまっても大丈夫です。
大切なのは、「そのままの自分」をそこに置いてみること。
それは、勇気がいることでもあります。
でも同時に、とても誇らしい行為でもあります。
誰かに見せるためではなく、自分自身に「今の私、ここにいるよ」と知らせてあげるような感覚。
カウンセラーは、それを急かすことなく、評価することもなく、ただ丁寧に、そばにいて耳を傾けます。
言葉にするたび、輪郭が生まれてくる
たとえば、モヤモヤした気持ちに名前をつけてみる。
「怒ってるのかな……いや、悲しいのかも」
「焦ってるようで、本当は不安なんだと思う」
そんなふうに、自分の気持ちに少しずつ輪郭が生まれてくると、それだけでほっとすることがあります。
わからなかったことが、少し見えてくる。
バラバラだった思いが、ひとつの流れになっていく。
そうすると、これまで自分をがんじがらめにしていた何かから、少しずつ自由になっていけるのです。
https://note.com/kana872/n/n3021ecbe0931
表現することは、自分を取り戻すこと
「話す」「表現する」ということは、ただ外に向かって言葉を放つことではありません。
それは、忘れていた自分の声を拾い上げ、自分自身と出会い直す行為でもあります。
忙しさや人間関係の中で埋もれてしまった“あなたの本音”。
それを見つけていく時間を、どうか自分に許してあげてください。
あなたが話すとき、そこには必ず、聞く耳がある。
そう信じられる場所がひとつでもあるなら、人はもう一度、自分らしく歩き出せるのだと思います。
https://select-type.com/rsv/?id=tPmjurDQByE
https://note.com/kana872/n/n72667a43d50a
https://note.com/kana872/m/mdaaed40b78fd
https://note.com/kana872/m/m713af714d313